偽装請負 格差社会の労働現場
題 名:偽装請負 格差社会の労働現場
著者名:朝日新聞特別報道チーム
今もっとも旬な話題である偽装請負について、その実態や問題点をあらわにした本だ。
朝日新聞が2006年7月31日から複数回にわたって報道し、それに基づいてこの本ができた。奥付を見ると2007年5月30日第一刷、2007年6月30日第三刷となっている。売れているみたいだ。
自殺をしたある若者の話から始まる。優秀な若者だった。その彼がなぜ死を選んだのか。その原因のひとつが彼の業務にあったのだという話だ。彼は派遣労働者だった。
そういう出だしで始まり、キヤノンや松下という会社における偽装派遣の実態と、クリスタルという請負会社(グッドウィルに売却され今はない)の話が続く。さらに請負や派遣業務の危険性について述べ、まとめとして企業や政府の責任を考えるという構成になっている。
この本を読んで非常に違和感を覚えた。
いったい何を問題にしているのだろうか? 偽装だ違法だ脱法だと騒いではいるのだが、根本的なことを作為的に無視しているかのような違和感がある。根本的なことを論じずに終わらすため、レアなケースである冒頭の自殺であったり吉岡さんという方の松下に対する訴訟であったりを取り上げているように見える。そして、違法だと断定できない松下にいたっては、幸之助哲学と矛盾はないのかと詰め寄っている。
違法が駄目だというのは当然で、その告発は大いにやるべきだろう。それはそれでいい。しかしなにかバランスを欠いたやり方であるように見える。
それは、法律を武器にしているように見える点だ。法律が武器にならなければ幸之助哲学さえ武器にするわけだ。
違法行為を記事にするのは社会の公器の役割だ。しかしもし、法律がおかしければ、ここがおかしいんじゃないのかというのもまた社会の公器の役割だろう。
朝日新聞社内では、法律がおかしいという観点はないのだろうか? その上で、本当に必要な法律は何かということを問うべきではないかという観点はないのだろうか?
がんばっていればいつか正社員になれると思っていたとか、正社員になるのが夢だとか、そういう言葉が本文中で出てくる。これなんかも、非常に違和感がある。
そんな言葉が出てくるのは、正社員が勝ち組で派遣社員が負け組みという図式があるからだ。しかしそんなのは、単に収入の多さとか仕事の維持率安定度の問題に過ぎない。
収入について言えば、たとえば法律で正社員よりも派遣社員の報酬額を多くしなさいと決められていればどうなるだろうか。それでも派遣社員は悲惨だろうか。安定度で言えば、この十数年の不況のお陰で松下でさえ終身雇用を守れないことがわかったではないか。
改めて問いたいのだが、朝日新聞社には派遣労働や請負労働についての法律が駄目なのではないかという視点がなぜないのだろうか? ある種の法律については平気であれこれ言うことができるのに。本当に必要な法律は、人材サービス会社の搾取分の割合や、労働従事者の報酬額が正社員よりも不利にならないことからはじめなければならないのではないだろうか。その結果、非正規雇用のほうが高くつくとなれば、経済社会においては、会社は正規雇用を始めるだろう。やむ得ない場合にのみ、非正規雇用の人材を用いるようになるわけだ。そしてもしこの法律を守らないやからが出てくれば、それは徹底的に問いただし、あげつらい、非難すればいい。
ITがらみの仕事には二重派遣や専ら派遣や偽装請負業務が実際上不可欠だ。まるで建設現場で日雇い労働者が不可欠であるように。ある大手企業のIT系子会社では、正社員が数名で派遣や請負の数が正社員の十数倍なんてところもある。違法のもとで働いているのは公然の秘密であるのだが、果たしてなくしようがあるのかという現実論もある。法律は現実に根ざすべきであるから、現実を無視してはいけない。しかしこの本ではスルーしている。
また、労働格差の問題もスルーしているように見える。たとえば、新聞という商品を取り巻く職業を考えてみれば、わかりやすいかもしれない。年収ベースで言うが、製作側では一千万円を越すのだが、発行部数を維持するための勧誘や配達などを行う側では300万円前後、なかには200万円を軽く下回る人もいる。ほかにも多くの業界でこのような格差は存在する。よく聞くのはマスコミだけど。下っ端はほぼ無給に近い奴隷状態で、貴族や王様が多数存在する職種だ。公務員と民間サラリーマンという比べ方もある。
そういう格差問題に対しては、この本はスルーしている。別な問題として捉えるのであればいいのだが、このままスルーされてしまうのではないかとも思う。朝日新聞社はそういう格差を当然と考えていると私は思うからだけど。私の思い違いであってほしい気持ちもあると、一応言っておこう。
とりあえず旬な話題であるから読んでみた次第です。
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